こざかなの素

健康は大事

「その日」が来た(5)

相続問題、というと、お金持ちの家で多額の遺産を巡って親類縁者が骨肉の争い……
というイメージが強かったため、私には縁のない話だと思っていました。
しかし、相続に関して知識ゼロからいろいろ情報を集めていくと、遺産の額に関係なく面倒な手続きが必要だと分かってきました。
高齢の母に話しても理解出来ているのか怪しいし、兄も自分から遺産分割協議をしようとは持ち掛けてきません。

まずやらなければならないのは財産調査という作業です。
が、やはり一筋縄ではいきませんでした。
確定している財産は不動産(持ち家)と凍結された預金残高ですが、父がなにがしかの保険に入っている可能性もあるので、手掛かりになるような書類を探したいと思いました。母にも一緒に探してもらおうと思ったら、「そんなもの入ってる訳ない!」と調べることなく決めつけてきました。家族に内緒で何か契約しているかもしれない、と言っても聞く耳を持ちません。

これだけでもう心が折れかけていましたが、凍結された口座は解除する必要があるので、財産調査は諦めてそのまま次の段階の作業に移りました。

それは「法定相続情報一覧図」の作成です。
何じゃそりゃ? という相続知識レベル0から情報収集をして、必要書類をかき集め、自分で法務局に申請しました。
遺産はそれほど多くないと思うのでこの書類は必要なかったかもしれませんが、知っていて損はない制度なので士業の方に依頼はせず自分で作りました(ひな型は法務局からダウンロード出来ます)。

一人で役所や郵便局に何度も足を運んで準備をしている間にも、母や兄からは相続に関する話題は一切出ませんでした。
それに加えて、高齢の母の判断力・注意力が格段に低下していることも気になってきました。
階段の電気が付けっぱなしだったり、台所の水を出しっぱなしにしたまま居眠りしていたり、消費期限が切れて変色しているもやしを調理したりと、いよいよヤバい状態に。
法定相続情報一覧図があれば、不動産登記や凍結口座の解除はクリア出来ますが、遺産分割協議書の作成は何だかハードルが高くなる気がしました。
母に財産調査(遺産分割)の話をした時に、自宅を売却するという方法もある、という話をしたら、それまでの話の流れは忘れたのか「家を売ったら私はどこに住めばいいの⁉」と怒り出したのです。
あくまでも仮の話なのに、半ばパニック状態になり、私に向かって「(そんなこと考えるなんて)恐ろしい人だね!」と吐き捨てるように言ってきました。もう話の内容が「線」ではなく「点」でしか捉えられないのかもしれない、と思いました。

判断力が確実に衰えている母と、家の重要事項に消極的な兄。
この二人をまじえての遺産分割の話し合いはまともに出来そうにないと判断した結果、私は相続放棄を選択しました。

法定相続情報一覧図を作った時と同じように、ネットで必要な情報を探し、役所で書類を集めて自分で裁判所に申述書を提出。1か月ほどかかって受理通知書が届きました。
前の記事で書いた「忌明けを待っていると間に合わない(と思われる)手続き」というのは相続放棄のことです。間に合わないこともないけど、書類に不備があった場合にやり取りが長引くことを考えたので、母から「恐ろしい」と言われた時点で放棄することを決めました。

口座凍結解除の必要書類は全て準備出来たので、あとは母または兄に手渡して終わりです。不動産については、私はもう部外者なので何もしないつもりです。

そして厄介事(心配事)はまだ山のようにあります。
この家は無宗教で、菩提寺もなければ墓もありません。母と兄が小さな仏壇を買ったようですが、位牌は白木のまま、遺骨は生前父が使っていた箪笥の上に載せてあります。
納骨先どうするんだろう?という問題から、そもそも仏教ありきで話が進んでいく日本の葬儀事情も何だか腑に落ちなくて、近い将来、確実におひとりさま高齢者となる自分の行く末をそろそろ具体的に考えなければ、とあらためて思いました。