こざかなの素

健康は大事

「トラベル」の語源を体験した話

また猛暑が戻ってきました。
暑いのは平気! と、20~30代の頃はアジア圏の観光地によく出掛けていました。
香港以外はほとんど短期のツアー参加でしたが、どの場所にも楽しいことや困ったこと、たくさん思い出があります。
中でも一番印象に残っているのは、9月に行ったエジプトの旅です。
アジアではないのでは? と突っ込まれそうですが、結果的にはアジア圏の旅になった話です。

30年くらい前(パスポートを引っ張り出して確認した)、8日間ほどのエジプトツアーに参加し、成田空港から飛行機に乗りました。

トランジットはマニラとバンコクの2か所で、最初の経由地であるマニラに着陸する時にそれは起こりました。

着陸時、割と大きめな振動でしたが、まだあまり旅慣れていなかった(たしか3回目の海外)のでたいして気にも留めず、アナウンスがあるまで機内で待機していました。その待機時間がやけに長かったのを覚えています。

しばらくするとアナウンスで指示があり、飛行機から降りてみたら、機体は滑走路から外れて何故か草地に着陸していました。

既に記憶が薄れていますが、覚えている場面は、ホテルの受付カウンターの前で多くの乗客たちが右往左往しながら、これからどうなるんだ、ということを話し合っている光景です。
とにかく何の情報もなく、持ち物は手荷物だけ。イミグレも通っておらず、入国しているわけではないので街にも出られず、で何がどうなっているのか全く分からない状態でした。

やがて航空会社から連絡が入り、この状況の原因は
「雨の水たまりで車輪が滑ってオーバーランした」
という驚愕の事態だったことが判明しました。

まぁ、フィリピンはちょうど雨季だからね。

……って納得できるかッ! と乗客の反応は怒る人、落胆する人、ちょっとワクワクする人(自分)、いろいろありました。
原因は分かったけど、なら今後どうするの? という話になります。

航空会社の方で乗客のパスポートを預かるという措置が行われ、ここでワクワクだった自分もさすがに不安になってきました。
ちなみにスーツケースなど手荷物以外のカバンはまだコンテナに積み込まれたままで、手元には戻ってきていません。

同じトラブルに遭遇した者同士は、たとえ見知らぬ人でも国籍は問わず、不思議な団結力が生まれます。
押しの強い、乗客代表のような人が(旅行会社の添乗員含め)何人か連れ立って航空会社と交渉してくれたのでしょう。
トランジットホテル(なのかな?航空会社が手配した宿泊施設)に着の身着のまま2泊ほどしてから、自分たちで飛行機まで徒歩で移動し、無造作に積み込まれたコンテナの中から順番に自分の荷物を発掘していくという、とても稀有な体験をしました。

なぜオーバーランしてからこんなにも対応が遅いのか。
航空会社の説明は以下のとおりと記憶しています。
(なにぶん相当前なので記憶が間違っている可能性もあり)

  • この会社で持っている機体は2機のみ
  • 1機はここ(マニラで待機・オーバーランで部品破損)
  • もう1機は稼働中(代わりに飛べる機体がない)
  • 交換部品を調達する手段(足)がない

目的地が「エジプト」という時点でどこの航空会社かは言わずもがなですが、いくら何でも2機はないだろう、と。今考えたらジョークだったのかな、と思わずにはいられません。「水たまりで滑った」という説明も事実なのかジョークだったのか……。

その後はツアーを催行した旅行会社の人や有志の方(個人旅行の人)が頑張って交渉してくれたおかげでパスポートも手元に戻り、どんな経緯か詳細は忘れていますが、別の航空会社の飛行機でエジプトに向かう人と、目的地へは向かわず帰国する人に分かれました。
自分は友人と二人でのツアー参加者だったので、エジプト旅行は中止・帰国という形になり、旅行会社のご厚意で宿泊先が老舗の五つ星ホテルに変わり、急遽マニラ市内の観光旅行となりました。

全く興味がないどころか、怖いというイメージしかなかったマニラですが、食べ物(特にフルーツ)は美味しいし伝統芸能も素敵だし、アジア圏に興味を持つきっかけにもなった思い出深い国となりました。

後日、参加したツアーの旅行会社からは催行中止のお詫びの書状とお品までいただき、逆に申し訳ない気持ちになりました(旅行代金は全額返金の上、マニラでの宿泊費や観光費も全て旅行会社負担)。

 

友人と自分、どちらも英語はさっぱりです。この時心強い存在だったのが、ある大学で働いているという女性で、エジプトで演劇大会?があるとのことで乗り合わせた方でした。航空会社や現地の人とのやり取りは当然英語になるので、通訳としてパイプ役になっていただき、大変お世話になりました。
航空会社と交渉してくれた人たちなど、顔も名前も国籍も分からない、いろんな人の助けがあって、今思い出話としてこんな風に語ることが出来ているのは本当にありがたいです。

エジプトに行くという同じ目的を持った人たちには何となく「おおらかである」という共通点があるような気がしました。このトラブルで怒った人はもちろんいましたが、相手が時間に寛容なアラブの人たちということもあり、「まぁしょうがないよね」とどっしり構えていた人が多かった印象があります。

「トラベル」の語源はフランス語の「苦労」とか「苦難」とか。
とりあえず手荷物の中には最低1泊分の身の回り品を用意しておく、ということを学んだ旅でした。

ちなみにその数年後、再びエジプトツアーに申し込んだら、今度は現地でテロ事件が勃発し、ツアー自体が中止になりました。
自分はエジプトには縁がないのかもしれない……。